[Introduction] 東京農工大学は、農学と工学という異なる知の領域が交差する、非常にユニークな学びの場です。ここでの大学生活は、自由と選択肢に満ちています。そして、皆さん自身の「選択」と「決断」が、未来の可能性を形づくる力になります。
エントロピー(Entropy)とは、物理学では「秩序から無秩序への自然な傾向」を示す概念です。地球環境も、社会も、文化も、放っておけば徐々に崩れていきます。つまり、何もしなければ、世界は少しずつ「散らかって」いくのです。
この視点から見ると、未来に対する態度は2つに分かれます。
・悲観主義:「どうせ崩れるなら何をしても無駄だ」と諦める。
・楽観主義:「誰かが何とかしてくれるから自分は動かなくていい」と依存する。しかし、どちらも、エントロピーの進行に対して無力化されてしまう態度です。
しかし、未来が確定していないからこそ、皆さんの選択と行動には意味があります。
未来が確定していないからこそ、皆さんの選択と行動には意味があります。 現在、AIが文化的なコンテンツを大量に生成する時代になりました。AIが生み出す情報は膨大ですが、文脈や個性を欠いたまま放置すれば、それは単なる「高エントロピーなノイズ(無秩序)」になりかねません。
しかし、私たちがそれを批判的に受け止め、意図を持って設計し、人間的な価値を注ぎ込むなら、そこに新しい「秩序」と「意味」を生み出すことができます。 技術が進化すればするほど、私たち人間に求められるのは「倫理的判断」と「創造的介入」です。
エントロピーという自然の力に抗い、新しい価値を生み出す「エネルギー」として、皆さん自身の知性と行動が必要です。大学生活は、そのエネルギーを養うための第一歩です。 自由に学び、選び、考え、そして行動する力を育ててください。 このキャンパスでの経験が、未来の秩序を築く力になることを願っています。(Lenggoro 2025/11)
2025/4/ me.tuat.ac.jp で動画をみることができます >> ver. 2025/4 (Movie 30 min): 新入生科目「大学では視野拡張と決断の数が重要 “Expanding your horizons and the importance of making decisions in university” (in Japanese)
- 大学時代の「時間=命」の意味と使い方 (Meaning and Use of “Time = Life” in University) – Reflects Time is Life
- 知識の「深化」と「探索」のバランスで可能性を拓く (Opening Potential through Balancing Knowledge “Deepening” and “Exploration”) – Reflects Exploration/Exploitation
- 「自由と選択肢」を活かす決断力と一歩踏み出す勇気 (Decision-Making Power and Courage to Step Forward, Leveraging “Freedom & Choices”) – Reflects Freedom/Choice/Courage
- 多様な経験が未来を豊かにする理由(エントロピーの視点) (Why Diverse Experiences Enrich the Future (Entropy Perspective)) – Reflects Entropy/Potential

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1) Time is Life (more than Time is Money). If we don't find any meaning or pleasure in “Learning” or “Working”, we're just “burning” our life (the body= chemical/organic system).時は命なり。「学ぶ」 や 「働く」 ことに意味や喜びを見いだせなければ、私たちは人生 (身体は有機化学システム) を 「燃やしている」 だけ。
2) The importance of being interested in a variety of subjects.さまざまなテーマに関心をもつことの重要性
3) Why Tokyo University of Agriculture and Technology, which consists of the Faculty of Engineering and the Faculty of Agriculture, can function as a very unique venue and facilitator for learners who are aware of global challenges工学部と農学部から構成されている東京農工大学は、地球規模の課題を意識する学習者にとって非常にユニークな場ならびにファシリテータとして機能できる理由
4) Relationship between the degree of freedom and choice in the design of courses and themes and the choice of field of activity during and after job hunting 履修科目やテーマの設計時の自由度・選択肢と就職(活動)分野の選択肢との関係
話した内容(原稿)の一部はここに表示しています:
大学生活は、自由度と選択肢、そして可能性に満ちあふれてます。しかし同時に、自分で決断をくだす場面も増えて、不安を感じることもあるでしょう。今日は、大学生活をより充実したものにするために、視野拡張と決断の重要性についてお話したいと思います。
今からお伝えしたいことはこちらです。1:選択肢の数と可能性との関係について。2:自ら踏み出す一歩の意味、3:様々なテーマに関心をもつこと、そして4:異なる意見を持つ人を尊重する、ことです。
大学生になって、高校生のこれまでと違う点は、自由度を高める期間に入ったということです。自分の真のポテンシャル(つまり、将来の可能性)を発掘する期間、と言えるでしょう。
VUCA時代:タイミングも鍵
世界は今、V.U.C.A.という時代に入ったと言われます。今後も、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性が増していきます。
絵を使ってVUCAを説明してみますと、波の無いプールで水泳選手の競争があります。誰が優勝するかはだいたい予測がつきますし、速さという判定もわかりやすい。これは、皆さんの大学受験と似ているかもしれません。練習量・勉強量と体力(能力)がカギとなります。ところで、VUCA時代に入った社会では、ウィンド・サーフィンのような競技で、競争のチャンピオンが誰なのか、チャンピオンを決める基準は何なのかもわかりにくい。同じ波は二度と来ません。風向きとそのボード(板)に乗るタイミングなどに対する判断力も必要ですね。
情報を遮断する決断力
私の世代のように、多くの大学の教員が、モバイル情報が無かった時に学生時代を過ごしてきました。情報の高い伝達速度と多量の情報の中で育った皆さんに対して、どのような授業の方法が良いか、私も毎年悩みます。wifiが5Gになり、生成AIツールも誕生して、授業のスタイルについても正解が分からない時代になりました。
私も心配しているのは、フェイクニュースも含めて、毎日、多量に流れてくる情報の中で、新入生の皆さんはどのように過ごしていくのか、ちゃんと情報をフィルターしているのか、気になります。多量の情報を浴びて、自分の処理能力を越えたりしないのでしょうか? 研究でわかったのは、人は多量の情報の中でマルチタスクを行うのは非常に苦手です。
意思決定プロセスが実行しにくい状況になった時、Time-Managementの調整がうまくないと精神的なストレスが増えていきます。これは避けたい事です。対策として、情報を遮断したり、スマートフォンやSNSを見る時間に制限をかけたりする勇気と決断力をもつことです。
情報の流れを遮断しないと、脳に入る情報量だけが益々増えていきます。しかし、人間のバイオリズムは、これまでも、これからも24時間周期です。脳の活動は時間によって異なると言われています。事実、ある大学の報告では、キャンパス内で研究室の事故のほとんどが夕方以降におきます。
大学生の特権:Time is Life
ここから、4つの基準:年齢、時間、体力、お金に照らし合わせて、大学生の特権について、整理してみましょう。
学生、社会人、シニアの3世代の中で、使える時間に着目すると、大学生とシニアの方に時間があります。社会人には時間に余裕がありませんね。一方、学生はお金は少ないのですが、体力では最も高く、シニアの方はお金も時間もあるのですが、体力が弱くなっていますね。
さらに整理しましょう。お金を得るためには、才能、知識、経験が必要です。また労働または勉強する時間が必要です。この時間は短縮することができますが、ゼロにすることができません。ここで分かったことは、体力は、時間の逆関数である、と同時に、体力は命である、ということです。この二つの関係から、時間は命ということもできますね。
つまり、Time is money ではなく、Time is Life と考える方が妥当です。私たちは、貴重な時間を削って、お金にして、生きています。勉強や仕事したりすることが単なるお金を稼ぐ手段だけであった場合、それは単に命を削って、お金を得ているだけになります。
ここで、生きるためにお金を得て、お金を得るために命を削る、という矛盾が生じます。よって、学ぶこと、または働くこと、そこに少しでも意味や楽しみを見出さないと、人生をただ燃やしてしまうことになります。
資源という意味で、お金は貯蔵性がありますし、無駄を認識しやすく、改善もしやすい。一方、時間という資源は「見えない」分、無駄を認識しにくく、ついつい流れていってしまいます。そして、一度、時間を失ったら、もう二度と戻れないということを常に意識して欲しいものです。
学んだ力と学ぶ力
ここで、話題を少し変えてみましょう。大学に入るまではは、何を学ぶかWHAT、に関して、皆さんは注目することが多かったかもしれません。しかし、これからもっと意識して欲しいことは、どうやって学ぶかHOW、です。今後も、学ぶ力、というプロセスを身につけることは、社会に出ても、皆さんの財産となると思います。
ここで、学力について少し詳細に紹介します。学力には2つあります。学んだ力、と、学ぶ力 です。学んだ力 には、ある内容に関する知識についての記憶力と理解力が主な要素になります。一方、学ぶ力には、主にメタ認知 というのが機能します。メタ認知とは、自分の学習状態を一段上から理解・調整したりする能力です。メタ認知は、メタ認知的知識または学習の見方 と、メタ認知的活動(つまり学習方略)で構成されています。こう見ると、【学力】というのは、それほどシンプルな構造ではないということがわかります。
学力の要素の間の関連について説明します。例えば、ある内容に関して、理解が深まることで【学習意欲】が増します。すると、次のステップで、この学習意欲の高まりが メタ認知 の【学習方略】へ影響します。内容の理解の深まりが、【メタ認知による学習の見方】に影響を与えます。そして、「学ぶ力」である「メタ認知の学習観」と「学習方略」が、再び【理解や知識】の方にフィードバックします。このようなサイクルが理想的です。理解や知識と学習意欲はともに高め合いながら両者を育成する視点が望ましいです
(続く)
