2nd year student reported: 燃焼場で起こるガスと微粒子の輸送を理解すると大気汚染が見える。Gas and particle transport in combustion site: a window to understand air pollution transport

on

ラボローテーション活動報告 Lab-Rotation Activities: Report (by Hiyori Jojima 城島陽和)

燃焼場で起こるガスと微粒子の輸送を理解すると大気汚染が見える

Gas and particle transport in combustion sites: a window to understand air pollution transport

燃焼システム中の二酸化炭素ガスとエアロゾル粒子の輸送. The transports of CO2 gas and aerosol particles during a combustion system

私は 4 か月間、ラボローテーションでレンゴロ研究室に参加させていただきました。 去年の 11 月に7名の先輩方(4年生、修士課程)に研究テーマを説明していただきました。 先輩方の研究テーマは大まかには植物系と大気環境系に分かれていましたが、その研究内容はそれぞれ独立しており、個人個人テーマをもって研究されていました。テーマ設定の背景から実験装置まで、実際に目で見て、話を聞いて学ぶことができ、 貴重な経験 をさせていただきました。

先輩方の研究 説明 から植物に興味を持 ち ました。 また私はもともと何かの香りを嗅ぐことが好きだったので、まだ行われていないテーマとして、「 香り 」すなわち「ガス」に関するテーマに着手しました。 そこで植物が自ら 香り物質(ガス) を出し、 天敵から身を守る現象がある ことを知りました。 これを応用し、 「 香りで 農薬を 用いずに害虫被害を防ぐ」という環境汚染に配慮した新たな農業が提案されており 、 「ガス (香り と環境汚染」というテーマにつながりました。今回の短期間で植物を取り扱うのは難しいと考えたため、 「ガスと環境汚染」でテーマ構築を考えた結果、ガス 自体 が大気汚染物質の一つであったため大気汚染に関するテーマで研究をすることに決めました。

大気汚染は環境や健康に悪影響があることが知られています。 また汚染物質の主な発生源は工場などの燃焼場であるので、大気汚染防止のためには燃焼場にお けるガスと微粒子の挙動を把握し、制御する必要があるといえます。


そこで「燃焼場におけるガスと微粒子の挙動を把握する」ことを目的として実験を行いました。本来であればここで先行研究などを Web of Science (WOS) で調査 すべきだったのですが、テーマ設定に時間がかかり 、 実験 に着手するのが遅くなってしまうため 論文検索は 実験後になって行いました。 ここは反省点の一つです。

目的 を設定 後、 燃焼場での物質挙動に関わる「分子の熱運動」と「拡散」について文献調査しました。この現象については以前講義で 学んだ ことがあったため、今まで学んだ教科書を参考にしました。 また本実験で蚊取り線香を用いたため、実験後に蚊取り線香を用いた先行研究をWOS で調べました。 文献調査と並行して実験装置を構築し 、 実験を行いました。

ガスの熱運動 について 調べ ました 。 ガスの熱運動とは 、 熱源から熱エネルギーが気体分子に伝わると、 分子がより活発に動くようになります。その 分子がさらにほかの分子にぶつかり、 熱が伝搬していきます。 分 子の動きが活発化すると 密度が低下するため、 軽くなり上昇する分子の流れが生じます 。

物質拡散について 調べました 。物質拡散とは 、 濃度勾配を駆動力に物質が高濃度から低濃度へ移動する現象のことです。流速 J は拡散係数を D として、この式で表されます。

実験後 WOS を用いて行った文献調査です。 Keyword として「 Mosquito* AND Particle* AND Size* 」を用い、 205 の文献がヒット しました。その中から蚊取り線香の微粒子特性についての先行研究を探し、蚊取り線香の煙の粒子の平均直径の中央値が 0 .094 μ m 、 すなわち 約 0.1 μ m であることが分かりました。

この粒径の粒子の挙動が拡散と重力の影響をどう受けるのか、粉粒体プロセスの教科書で調べました。蚊取り線香の粒径は緑の範囲なのでブラウン拡散係数、終末沈降速度ともに小さい範囲と言えます。したがって、蚊取り線香から生成する粒子は拡散と重力の影響を受けにくいと分かりました。

実験装置構築です。燃焼場を蚊取り線香でモデル化し、そこから発生する汚染物質のうちガス状物質を蚊取り線香の燃焼で生じる CO ₂で、粒子状物質を煙とみなし実験を行いました。 CO ₂の挙動は CO ₂濃度で、微粒子の挙動は目視で観察しました。

こちらが実際に構築した実験装置です。三戸さんにサポートいただきました。システム①を構築したのですが、燃焼を伴うためもう少し空間が必要と考え、空いていた棚を貸していただきました。改良したものがシステム②です。この時点では装置内に ポンプで 風を流 す予定 だった ため、ポンプと流量計を設置しま したが、 蚊取り線香が CO ₂源、エアロゾル源、熱源を兼任する状況に加え風を流すと現象がより複雑化してしまうため、風を流すことをやめました。そのため最終的な実験装置はシステム③となりました。

3 台の CO ₂メーターを上部と下部左右に設置し、その箇所での CO ₂濃度、温度、湿度を測定しました。蚊取り線香は中心に設置しました。

流量計を使う予定だったので、三戸さんと市川さんとともに石鹼膜流量計を用いて校正を行いました。石鹼膜流量計の値 (実流量)を縦軸に、 ボールフローメーターの表示値を 横軸 にプロットし、右のグラフを作成しまし た。このグラフを用いて ボールフローメーターの表示から実流量が求められ ます。

実験方法です。こちらも三戸さんと市川さんにサポートしていただきました。 装置 内で蚊取り線香を燃やし、煙の挙動と CO ₂濃度 と温度 変化 のデータを 3 回取りました。

得られたデータが次のグラフです。初期濃度からの増加量をグラフにしました。青の線が上部 の、 グレーとオレンジが下部の CO ₂ メーターの計測値です。 燃焼開始後すぐに濃度が3カ所すべて増加しました。また 2 分までは上部の増加が目立ち、差が見られましたが、 6分後にはその差がほぼ 無くなりました。

次に温度の計測結果です。上部に設置した CO ₂メーターは上昇するガスの温度を測定したことになります。上昇するガスは下部より温度が高く、時間とともに温度差が大きくなる結果となりました。

目視で観察した粒子の挙動 が こちら です。(エアロゾル)粒子数カウンターで微粒子の個数濃度を測定し ました が、測定機器の上限を超えてしまったため目視で観察しました。

燃焼開始直後は煙の挙動は少し乱れつつ上昇し、約 30 秒で 安定してまっすぐ上昇する様子が観察されました。これをイラスト化したものがこ ちら です。 最後のイラストの状態に なるまで約 1 分、煙が装置に 充満するまでに約 3 分かかりました。

これらの実験結果から微粒子と CO ₂分子の挙動を予想し、イラスト化しました。 これは燃焼部分を拡大したイメージ図です。◯の CO ₂分子は拡散現象により、全方向に広がっていきますが、熱運動により上昇する動きが加わります。したがってこの図のように上部に伸びた楕円のような形で広がっていくと考えました。またこの微粒子は拡散と重力の影響を受けにくいので CO ₂分子に押しのけられ上昇したのち、装置の天井にぶつかり跳ね返って降下したと考えました。

この図から実際に目に見える微粒子のみを残した図が次の図です。この図は実験で観察できた 煙の 様子と等しいといえます。

次に装置内全体の 温度勾配、微粒子挙動、 CO ₂の濃度勾配 の予想図を作成しました。楕円型に拡散する CO ₂分子に押しのけられ微粒子が上昇する、そして燃焼部から熱エネルギーを得たガスが上昇することで温度勾配が生じる、と考察しました。これによって目に見えないガスと温度と、微粒子の挙動を可視化でき、文献やネット上にはない現象を見ることができました。

この実験から、 燃焼場におけるガスと微粒子の挙動を「可視化」し、相互関係を明らかにすることができ ました。これを大気汚染につなげると、煙や砂などの微粒子は空気の流れに挙動が大きく左右されますが、汚染ガスは流れがな くとも拡散していくため 地球全体の問題であるといえます。 小規模な装置から地球規模の「汚染物質の広がり」現象を想像するきっかけとな りました。

また、 近年流行しているコロナウイルス のエアロゾル粒子のサイズは本実験での煙の粒子サイズと 同程度です。したがって 拡散や重力の影響を受けにくく、空気の流れ を受け漂っていると考えられます。このことから コロナ感染予防には 2 つ以上の窓やドアを開け、 エアロゾル粒子を追い出す 空気の流れを 作ることが重要であるとわかりました。

今回 ラボローテーション で 実際にデータをとることで生データから、拡散現象や熱運動を学び、さらに大気汚染 、ウイルス感染 対策 について考えることができました。 また 実験だけでなく、テーマ設定や文献調査、 器具校正から 実験 装置構築 まで 、 多くのことを 実際に体験 し学ぶこと ができ、座学 とは違う とても貴重な 経験 で した。 終始多大なご指導を賜ったレンゴロ先生に深謝いたします。また、三戸さん、市川さんをはじめレンゴロ研究室の先輩方には 研究 への多大なご助言、ご協力を頂きました。ここに感謝の意を表します。 また、このような貴重な機会を設けてくださり、ありがとうございました。