研究を使った次世代対応型教育へ (2019 WL)

世界は今、VUCA(激動・不確実性・複雑性・不透明性)の時代に直面していると言われます。グローバル化による地球規模の社会問題、そして技術革新やイノベーションもVUCAを引き起こす要因となります。開発より環境保全を訴える先進国に対して、途上国は環境破壊を招いたのは先進国だと非難し「環境より開発を」 と主張するなど、技術革新では解決困難な複雑な課題が山積しています。

 人々はどうして歩み寄れないのでしょうか。各国の企業経営法を、横軸を「階層Hierarchical」と「平等Egalitarian」、縦軸を「上意下達Top-down」と「合意Consensual」としてマッピングした例(2017)があります。日本とドイツは「階層」「合意」型ですが、中国とインドネシアとフランスは「階層」「上意下達」型(上司は指導者)、米国と英国は「平等」「上意下達」型、オランダと北欧は「平等」「合意」型(上司は指導者ではなくファシリテーター)に分類されており、物事の捉え方や進め方は文化により異なっていることがわかります。国々の間で摩擦が起きる理由が各国の文化・歴史から生じていることを理解することも大切ではないでしょうか。

 次世代人材はますます先が読みづらいエコシステムにおかれ、複雑かつ不確実な場面で高度な決断と行動ができる能力が要求されていきます。そのような人材を育てる教育はいつどこで行われるべきでしょうか。理系の人材としての最後の訓練の場が研究室であるとした場合、指導する側がどのように組織やプロジェクトを運営しているか、学生がそれをどのように経験したかが及ぼす影響は大きいと考えます。対VUCAに適応力の高い人材を養成するには、リスクを意識しながら失敗を経験させ、失敗から学ぶプロセスを反復練習できる環境づくりが必要です。残念ながら、成果主義になってしまった日本では、個人の数値的評価を重視するようになってきています。そのため「上意下達式」で学生を短期的に成功に導き、学ぶ人の失敗に付き合う余裕がないかもしれません。日々、コツコツと努力することは重要ですが、努力の結果として短期的な安定感・安心感(comfort zone)に甘んじていると、その安定志向こそが将来における「危機感」の感度を下げる原因になる可能性があります。

 また、長期的な教育効果を考えた場合、異なる分野の研究者との共同研究や、ある割合で外国人スタッフ・留学生を在籍させて組織に多様性を導入し異質を巻き込んだ環境を調整することが、VUCAを経験させることになるでしょう。私がエアロゾル(気相中に浮遊する微粒子)の研究と出会ってから約10年が過ぎた頃のことです。日本人ではないナショナリズムをもつ私のモチベーションは揺らぎ始めました。日本と途上国とが「協同」できる「適正技術」の研究教育をするのが私にとってシンプルでわかりやすいのではないと考えるようになりました。幸い新学術領域研究(2008-2012年度)で「植物とエアロゾル」をテーマとして東南アジア等のフィールドの成果について多くの関係者と数カ月にわたって議論する機会を得ました。そこで研究(エアロゾルや物質移動現象論)が日本と途上国との「協同作業」に開放的でエレガントな「媒体」になったことに何度も感動しました。植物微粒子暴露チャンバーを設計した際はエンジニアとして最も頭を悩ませましたが、多くの工学系学生に学際研究の意義を考えさせることができました。農学領域からは多様性と リスクとの付き合い方だけでなく、多くの工学的なヒントをいただきました。学際研究に基づくアプローチで教育することで、学生たちにも世界規模での課題解決に向けたモチベーションを飛躍的に向上させることができます。

 世界規模の課題は複雑であり、「競争」に過大な価値を置く社会が増えれば世界全体が悪い方向に行くでしょうし、長期的に勝者が誰であるかは意味がなくなると思います。他の国との協同には互いの歴史への理解と思いやりが鍵です。Good & Bad Thingsを取扱える研究領域との接点、日本と途上国との間におけるグローバルな次世代人材の育成、いずれにおいても「ちょうど良い」立ち位置にいるのが学際的学会(エアロゾル学会など)の強みであると考えています。

(2019/7/WL エアロゾル研究・巻頭言へ投稿する予定)